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天麩羅揖保の糸添え

これは当店で懐石料理のコースの中の強肴としてお出ししているもので天麩羅に
揖保の糸という素麺を添えたものです。食欲のない時期でも、この素麺と薬味を
添えたものと一緒に召し上がると、天麩羅もあっさりと頂けますのでどうぞご家庭でも
お試しください。 今回は 天麩羅と素麺というとありきたりの料理ですが、この二つの
料理について材料と料理法のこつを少しお話してみましょう。まずは素麺からはじめ
ましょうか。 (^▽^)

当店のございます播州地方では、素麺といえばこの揖保の糸というものを使います。
他の地方の方には馴染みがないかと思いますが、素麺についてのお話はどこのものでも
基本は同じでしょうから、この揖保の糸のお話からはじめましょう。全国的にもシェアは30
パーセント以上あるそうで関西の方でなくてもご存知の方もいらっしゃるでしょうか?

さてそれでは今回は そうめんと天麩羅 その常識と嘘 です。

この揖保の糸というのは旧竜野藩が竜野の薄口醤油とともに奨励生産したもので、この地方の
農家の冬場の仕事として手延べそうめんとして受け継がれてきたものです。現在6百軒近くの農
家が生産しているそうで、今でも各農家生産者の手作業で生産され組合に供出されている
そうです。さて この揖保の糸ですが、生産過程において麺がくっつかないようにごく少量の綿実油を
使用するのでその油分を抜くのにもみ洗いをしたり、あるいは生産されてからある程度寝かせる
という手法がなされています。 冬に2昼夜かけて生地を熟成させ、引き伸ばし乾燥させたものを
最低でもその年の梅雨明けまでは寝かせます。  そうすることによって麺が熟成し腰が強くなり
旨みも増し、また生産過程で加えた油分も抜けていくのですね。組合などの倉庫で品質管理され
一年ほど寝かせたものは、ひね とか  とかと表示され販売されています。若干お高くなります
が、できたてよりもこのほうが同じ生産者のものであれば確実に美味しいですので古をお求めくださ
い。 ただここで注意していただきたいのは 古ければ古いほどいいというような間違った迷信を
信じて、ご家庭で押し入れなどにしまい込んで保存される方がいらっしゃいますが、そんなこと
はしない方が得策です。
そうめんの賞味期間は長くても2年半といわれています。押し入れの奥に
しまい込んで、挙句にかび臭くなったり虫が沸いたりしたものを後生大事に出してきて 「うちのそうめ
んは3年物だぞ。」と有難がるのは如何なものでしょう? (^▽^)  そんなことをするよりも古を
買って美味しいうちに召し上がるほうがずっと得策です。 古やひねはまた来年も出てきますので、、。
また古い、新しいに関らずもっと味を左右するのは生産者の技術です。   当然ですが、元々が
よろしくない物をいくら寝かせたからといって美味しくなるはずもなく、そんなものより上手な生産者の
新物のほうが余程美味しかったりしますね。食材は何でもそうですが、信用できる乾物屋さんを探す
ことです。 そしてこの揖保の糸に限っては、そういう店で買われた物には生産者の氏名が書かれ
ていますので、美味しいと思うものに出会ったら生産者の名前を控えておいて注文されると良いで
しょう。 それがそうめんの一番のこつでしょうか。
昔は何処で買っても揖保の糸というのは美味しか
ったのですが、近頃は量販店等の贈答用などは古であろうが何であろうがまったく腰のないものも
あるようですね。 魚屋同様生産者まで把握しているような頑固おやじのやってる乾物屋を探しま
しょう!!  (^▽^)
また揖保の糸はその等級によって黒帯とか赤帯などに分けられていますが、概して高級品とされる
黒帯のものは麺が細く伸ばされているようです。 私はそうめんにはある程度の太さと腰が必要だ
と思っていますので、あえて黒帯は使いません。 それよりもやはり生産者の技術によるところのほう
がはるかに大きく味を左右します。
 写真は赤帯 一級の ひね「厄上がり」 です。

さてそれではそうめんのゆがき方です。 沸騰させたたっぷりのお湯にほぐしいれますが、そうめんは
細いので指し水などする必要はありません。ふきこぼれないようにしてそのまま1分半か2分ほど
湯がきます。 パスタのように麺をちぎって芯を見るわけにはいきませんが、そうめんを塗り箸など
細い丸い箸ですくってみて、そのたれ加減でゆがけているかどうかわかります。しっとりと箸にまとわり
つくようになればできています。そうめんの乾燥の具合や太さによって違いますので、かならず茹で
加減を見るようにしてください。茹で上がったらすぐにざるにあげ流水で冷やします。 この時必ず
十分麺が冷えるまで流水にさらします。 ココが一番のそうめんのゆがき方のこつですね。生ぬるい
うちに手をつっこむとそう麺に手の脂分の匂いがついてしまいます。 十分冷めてから手早くしかも
しっかりと揉み洗いします
。 ここで残ったかすかな油分を抜くのですね。しっかりと揉んだら手早くざる
にあげ水気をきります。 いつまでも水に漬けておいてはいけません。 あっというまにそうめんはふやけて
伸びてしまいます。 そうめんの古はあのあめ色の腰のつよさが命ですので、まちがっても氷やましてや
氷水などに浸して食卓に出さないようにしてください
。 そんなことをしたらわざわざせっかくのそう麺を
ほとびさせているようなものです。 (^▽^)   では観光地などの流しそうめんはどうなるの?とおっし
ゃる方もおられるでしょうか?  私なら 流しそうめんは 多分食べません、、、。。 (^▽^)

さてそうめんの次は天麩羅にうつりましょう。 まず天麩羅に使う粉ですが、通常は薄力粉ですね。
天麩羅の薄力粉の溶き方にはいろんなやり方が云われています。 よく料理の本などには小麦粉は
ねばらないようにさっくり混ぜるとか書いてありますね。  天麩羅が粘ついたりからっと揚がらないのは
粉の中のグルテンというタンパク質の作用とあとは油の温度です。  このグルテンというのは小麦粉の
タンパク質の成分でこれが粘りを出すのですね。粉を水で溶く場合にこねくりすぎると粘りがでてしまいます
ので さっくり混ぜる と書いてあるのです。   ある意味これは正解なのですが料理屋とか天麩羅
屋ではその手法を使っているのは多分少数派でしょう。 通常は粉だけを冷暗所で半年寝かせるとか、
あるいは粉を卵黄と水でといて逆に練るだけとことん練ってしまいます。 中途半端に練るのはよくない
のですが、徹底的に練ってしまうと逆に腰が抜けて粘り気がなくなるのです。それを冷蔵庫で3時間ほど
保存しておいてから使うとか、あるいは揚げている途中で粉が暖かくなって粘りが出ないようにボールを二重
にして氷水で冷やすとかです。またコーンスターチを少量混ぜるところもあるようです。各店と料理人に
よっていろいろやり方があり一概にどの方法が最も良いかとは云えませんが、ご家庭で天麩羅を揚げるのに
粘つかない奥の手をお話しましょう。ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、薄力粉ではなくいわゆる 
天麩羅粉という商品名のものを使われる場合は、これには最初から粘つかないようにコーンスターチなど
種々の成分がはいっています。なのに本に書いてあるように卵黄とか全卵を入れていませんか?
実はこれが粘りのもとになっているのです。
 天麩羅粉を使う場合には卵は入れてはいけません。 
水だけです。    卵黄を入れるのは純粋な薄力粉の場合だけです。

これでおそらくは油の温度さえ間違わなければからっと揚がるはずです。 どうぞお試しあれ。

さて写真は海老ですが、曲がらないように腹側に切れ目を入れてなおかつ背中側から押して筋きりを
しています。 これでまっすぐに揚がるのですね。 他に材料ごとに簡単にコツをお話しましょう。

  きす 白身の魚であっさりしているのでさっと揚げたら良いと思われる方が多いかと思いますが、実は
 きすはかなり油を吸わせてやらないと美味しくなりません。 とくに皮目をこんがりと揚げませんと生
 臭いので、こつは身のほうに粉をつけてから溶粉につけてこんがりと揚げることです。

 烏賊(いか) 天麩羅で使う烏賊は分厚いコウイカです。ヤリ烏賊や剣先などするめ系の烏賊では
 天麩羅になりません。 なるべく生で食べれるぐらいの良質のコウイカを、これは衣もできるだけ薄く
 できるだけさっと揚げます。 中はまだ半レアかなと思うぐらいでちょうど良い上がり具合になります。
 浮き上がってくるまでまっているとかちかちになってしまいますので注意してください。

   たこも揚げすぎるとすごく硬くなりますのでさっと揚げます。 そのほかには薄味で炊いておいた
 ものを天麩羅にするやり方もあります。 これは少ししっかり揚げて、やはり油が少し入ったほうが
 美味しいですね。 たこの炊き方はまた次の機会にでもお話しましょう。

 穴子 あなごはきすと同じです。身のほうにだけ粉をつけてから溶粉につけて皮目から入れてしっかり
 皮目を揚げてから身のほうもしっくりとあげます。  これも淡白ですが油をしっかりと入れてやらないと
 美味しくなりませんね。 

天麩羅の油は食材によっても少し温度が違いますが、概して170度から180度の高温で揚げるほうが良いと思います。写真の
ように溶粉を入れて、底に沈む間もなくぱっとあがってきて油の上で踊るくらいなら170度以上です。 これぐらいでぱりっと揚げて
みてください。 写真のそうめんは前出の返し醤油にかつおだしを加えて一煮立ちさせたものです。そうめんとあわせるのですから
あまり濃いとそうめんが辛くなってしまいますが、そうめんだけでちょうど良いぐらいだと逆に天麩羅が味気なくなってしまいます。
この味加減は意外と難しいのですがそのぎりぎりのところ(塩梅)を探ってみてください。天麩羅は揚げてからの鮮度が命です。
天麩羅の油を温めてからそうめんを湯がいて、すぐに天麩羅が揚げられるように同時進行してみてください。薬味は茗荷と大葉の
千切りなどがさっぱりしてよろしいでしょう。
今回は二つの料理を一つにしたようなものですのですごく長くなってしまいましたが、ここまで読まれた方はご苦労様でした。
                              これで そうめんと てんぷらの 常識と嘘 ようやくおしまいです。  「(^^; )
            
              次回はそれではここでも少しお話した料理の鮮度についての四方山話でもさせていただきましょう。